Home / ファンタジー / ムラサキの闇と月華迷宮 / 第二章 二の蝶〜下弦の月〜

Share

第二章 二の蝶〜下弦の月〜

last update publish date: 2026-01-15 22:54:46
 考えたこともなかった。

 安倍晴明さまの養子になったら、妻をめとらなきゃいけないなんて────

 あたしはずっと……この人の隣で、戦うつもりでいた。

 千年さまが、他の誰かと結婚とか

 頭をよぎった事もなかったよ。

 「俺も、知らなかった」

 千年さまが呆然とした表情のまま、重たい口をひらいた。

 「千年さまも知らなかったんですか?」

 「ああ、ただ優秀な陰陽師になりたいって思ってたからな。そっか、跡継ぎって……いるんだよな」

 その時、小犬がじゃれるような仕草で、桔梗さまが割ってはいった。

 「桔梗にはもう一人お兄さまがいるから、安泰だとは思いますけど」

 「そうだよな」

 「でも、せっかく桔梗の兄さまになったんですもの。いつか、お兄さまが夫婦となる大切なひとと、桜の下で宴をしてみたいわ……!」

 「桜の下で」

 「そう! 式神の皆とたっくさんご飯をつくって、花のように笑うの。それが桔梗の夢……!」

 琥珀色の十二単が、陽光をうけて煌めく。その時あたしは、どこにいるのだろう。

 桜の下、千年さまが大切な誰かと笑うとき。

 見えない花びらが、幻想の中で舞い散る。

 桜
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • ムラサキの闇と月華迷宮   第三章 十八の蝶〜さくら言葉と君への想い〜

     「夕月夜はな、妖怪『枕返し』のチカラを、吸収しておったようじゃ」 蛍火自慢の料理、魚の煮物をつまみながら、晴明さまがトツトツと話してくれる。 あの事件から、数日がすぎた。 「枕返しの力って、夕月夜はサトリですよね?」 「そうじゃな。どこかでサトリになってから、枕返しを食べたのであろうな」 「そっか、それで力だけを吸収したと」 「ああ。夕月夜は格別チカラの強い、サトリだったようじゃ。他の妖怪を喰らい、夕月夜の姿のまま、強化する事ができたようじゃな」 なんていうか、あたしは大変な闇の王と戦っていたらしい。 今更ながらに、あれは大物であったと理解ができたわ。 「なんか生きてて良かったです!」 「誠にのう」 こうやって皆でいつものようにお膳を囲み、おいしい料理に箸をはこんでいると、ふと千年さまがあたしの隣で笑っている気がして、まだ切なくなる。 けれどあたし、日常に帰ってきたよ。 ここは晴明神社。式神の住まう屋敷。 いつものように広い座敷に、みんな向かい合わせで膳を並べ、晴明さまも式神も、いっしょになってご飯を食べるのだ。今は朝餉の時間。 春の陽射しがまぶしく煌めき、御簾から光がこぼれてお膳を照らす。 千年さまがいた場所に、今は士道さまと、鈴丸、桔梗さまが座っている。士道さまが、汁物を啜ると目を細めてあたしへと言の葉を紡いだの。 「秋華ちゃんが、生きていて良かったよ」 「士道さま」 「千年との約束が、守れて良かった」 「そう、ですね……」  そうしている間、鈴丸と桔梗さまはミカンを奪い合っていた。きゃいきゃい騒ぎながら、楽しそうに蜜柑を二人で頬張っている。鬼童丸も、今日はゴキゲンなようだ。 ああ、そういえば日常ってこんな感じだったっけ。 あたしは魚をはぐっと頬張ると、晴明さまに聞いてみたかった事を、投げかけた。 「ねえ晴明さま、妖怪『枕返し』について、もっと詳しくお聞きしたいな」 「枕返しか。人はな、夢をみている間、魂が肉体を離れると言われておる。夢うつつの状態で枕を返されると、どうなると思う」 「ど、どうなるのですか?」 「魂が黄泉の国にいったまま、二度と帰っては来ないのじゃ」 ゴクリ、と喉が鳴る。 「それって……死を意味するのでは」 「ああ、おそらくな」 「ではあのまま。一等優しい夢の中で溺れて

  • ムラサキの闇と月華迷宮   第三章 十七の蝶〜鬼と果て、蝶と果てても〜

     「みずか……さま……」 水鏡さまの穿たれた心臓から、一匹の蝶がまた生まれる。 あたしはその緋色の蝶に手を伸ばすけれど……するりと指の間を抜けていった。 体の先から深紅の蝶になっていく水鏡さまが、夢のように微笑する。 「地獄でもかまわないと、いったでしょう? 私ね、愛しい人の傍にいられるのなら、鬼にも蝶にもなれるのよ。貴方ならわかるでしょう……? 秋華……」 彼女の瞳から、ひとすじの涙がこぼれる。 涙は、やがて蝶になる。 あたしに向かって差し伸べられた掌が、はらはらと崩れて。 やがてそれは数多の蝶へと変化した。 「それでも、心は……残っていたのかな」 桜色の傘、あの日の雨音が聞こえる。 ねえ、それが貴方の夢だったの……? なつかしい微笑みは、小さな無数の蝶へとかわり羽ばたいていく。彼女の体がすべて蝶になってしまうのを、どうしても止められない。 「どこへ行くの?」 炎の色を秘めた蝶は、あたしを取り囲むと、あたしの体をフワリと浮かびあがらせる。 「え、浮いてるっ!?」 そのまま幾千の蝶達があたしの体を乗せて、闇の向こうへ運ぼうと舞いあがった。 「いかせない」 パシン……! 右手に強い力を感じる。 あたしの腕をキリリと握り、桔梗さまが引きとめた。 「秋華ちゃんは私の式神だ。行かせない!」 桔梗さまの掌は、しっかりと結ばれていた。 強い強い力で、あたしは地面へと引き戻される。 タンと、うつし世の地面に足をつける。 ここは現実、あの人のいない世界……! 「それでも、生きていくからね。千年……!」 大好きな、あの人を想った。 どうしようもない恋だった。 それでも全部、真剣だったよ。この世なんかいらないと思う程、誰かを愛せたこと。 もうそれだけで、十分だったから──── あたしは桔梗さまに駆け寄ると、ぎゅぅぅぅぅっと抱きしめた。もう無くしたくない絆を、確かめるように。 『ありがとう』 「みずか、さま……?」 その光景をみていた幾百の蝶たちが、なにかを悟ったかのようにと方向をかえた。 そうして一斉に月へと羽ばたいたいていく。 ザン……! 深紅の蝶たちが、蒼い蝶を追いかけていく。 あたしの頬をかすめて飛びゆく蝶を、もう捕まえることはしなかった。抱きしめた桔梗さまから腕をはなして、照れたようにあたしは笑

  • ムラサキの闇と月華迷宮   第三章 十六の蝶〜蒼の蝶と紅き蝶〜

     鳳凰の口から、炎の滝が一気に放出された。 「ゴオオオオォオオン」 「千年の仇、その身に業火を浴びるがいい!!」 鬼童丸の体躯から、修羅のような殺気が立ち昇っていた。 それと重なるように、地獄の豪華のような火炎が、夕月夜に向かって降りそそがれる。 「夕月夜、君を守る!」 「鈴丸!」 夕月夜をかばうように、鈴丸が両手を広げて、立ちはだかった。あたしも、何故か守ってあげたくなる。おかしいよね、あれは憎い……敵なのに! 「もういいよ、鈴丸」 「えっ」 「君は、誰より生きなきゃいけない」 そう呟くと、夕月夜は鈴丸をの背中をドン! と押して、いっしょにゴロゴロと転がった。滝のような炎は、二人から離れた場所で、ダクダクと降りそそがれる。その光景を見据えると、夕月夜は砂をはらいスルリと起き上がった。  「鈴丸、君がここに来るまで……人など滅べばいいと願っていた」 「夕月夜?」 「でも、君が生きているなら。ヒトも悪くないな」 「だけど。僕はもう、ヒトじゃないよ」 「いいや、誰よりも君は……ヒトであろう」  風がさやさやと頬を撫でる。 夕月夜に、やわらかな笑みが滲んでいた。 ああ、この優しい面差し。懐かしい感じがする。 それはかつて、あたしが雪椿だった頃に出逢った、あの夕月夜だったんだ。 「君は生きるといい。その為ならば、命を賭けたっていいや……!」 「夕月夜!」 あたしは思わず、彼の名を呼んだ。今ならば、あたしの声も届くような気がしたから。 「雪椿からの、伝言だよっ!」 「なんだって?」 「あの子は散って、幽霊になっちゃったんだ。あたし彼女に伝言を頼まれたのっ!」 「伝言って、雪椿からか」 「そうだよ、どうか……覚えててーっ!」 あたしが叫んだ刹那 天空をスーッと旋回する鳳凰が、大きく羽ばたいた。鬼童丸の殺気は、より激しい勢いをみせる。 体から瘴気のごとき金色の炎がメラメラと燃え滾り、その右手にたずさえた火神剣を、天空に高々とかかげた。そうして雄々しい咆哮をあげる。 「夕月夜、天の裁きを受けるがいい!」 鬼童丸は炎に包まれたまま、夕月夜に向かい、まっすぐに走っていく。当の傾国の美少年は、涼やかな瞳でそれを見つめていた。 もう、鬼童丸を止めることは出来ない!  だったらせめて……この言葉だ

  • ムラサキの闇と月華迷宮   第三章 十五の蝶〜鳳凰のホムラ〜

     鈴丸はキリリと結んだ漆黒の髪を揺らし、その手にたずさえた刃を鬼童丸に向ける。 「お願いです、鬼童丸さん! 僕は、夕月夜を助けるために、式神になったんです!」 「なんだって」 「僕にはチカラがなかった。だから母上も戦乱に巻き込まれて、亡くしてしまった。もう、嫌なんです!」 「鈴丸、お前……っ!」 「僕はもう、大切な人を……失くしたくないんだっ!」  鈴丸の握りしめた刀が、かすかに揺れていた。 あの子、まだ十代であろうに。 人の身を捨てて、鬼へと変わるなんて──── 「この、鬼の力があれば戦える。もう一度、あの失われた長岡京を取り戻そうよ、夕月夜」 「鈴丸……っ」 「なあ、朝顔は元気?」 鈴丸が、夕月夜の前に立ちはだかると、チャキっと切先をこちらに向けて構え直した。まるで、「夕月夜の盾」となる事を決めたように。 だが、鈴丸の言葉を耳にした夕月夜は、氷のような表情を宿した。 「鈴丸。朝顔は……死んだよ」 「えっ、嘘だろ」 「誠さ。長岡京が滅ぶ少し前、大きな反乱があってな。私も命を狙われたのだ」 「そんな事が」 「朝顔は、母上に『雪椿』って新しい名をもらってね、可愛がられてたんだけど。父上と母上は討たれ。雪椿は、まるで私を庇うようにして、流れてきた矢に……射抜かれたんだ」 あわい紫の瞳から、涙の雫がシン……と流れる。 「私は、忘れられない。誰一人として、忘れてしまっても……私を、長岡京を滅ぼした人間どもを、許すことなど、出来やしない……っ!」 「そうか……、朝顔が。君の気持ち……わかった」 「鈴丸」 はらはらと、あふれる涙を拭うことも厭わずに、鈴丸はコクンと頷いた。 「君のチカラとなろう!」 夕月夜と鈴丸。二人は背中合わせとなり、あたし達にカッと、刃を向ける。 あたしは、夕月夜と暮らした事がある。 だから、二人の気持ちだって……痛いほどに理解ができたんだ! 「ごめん。できれば、殺めたくないっ!」 「小賢しい。ヒトなど、この都のためにも……滅んだ方が良いのだ!」 「うおおおおおおおおおおおおっっっっっ」 二人が共鳴するように、咆哮する! 天空では火神剣から生まれし鳳凰が、バサリと大きな羽を広げ、炎の紅玉を放とうとしていた。鬼童丸が、鳳凰とともに光に包まれていく。 「ほざくな

  • ムラサキの闇と月華迷宮   第三章 十四の蝶〜火神剣と玉依姫のおまもり〜

     「何、このお守り!? 何か入ってるの?」 水鏡さまの指先から、黒煙がブスブスと立ちのぼっていた。 まるで、火傷でも負ったようだわ。 水鏡さまが、お守りに触れた部分の皮膚が、赤くなっている。この袋の中身って、ただのお守りじゃないのだろうか? なんだか、心がざわめく。 あたしはお守りの袋の中から、ちいさな一枚の板を取り出したの。 「それは石神さんの、鬼を祓う守りの札じゃな」 「晴明さま! これは夏妃って人が散る前に、千年さまに渡した……形見だったんですよ」 「夏妃か。よう、うちの神社にも出入りしておったな」 晴明さまは、いつかの記憶に想いを馳せるように、虚空を見上げた。 その瞳はどこか、憂いを帯びているように見える。 「生きてほしかったんじゃろうな。そのお守りの御神体は『玉依姫』じゃから」 「玉依姫、ですか?」 「おなごの願いを……たった一つだけ叶えてくれる、女神なんじゃよ」 女の子の願いを、たった一つだけ──── 「ああ……そっか。生きて欲しかったんだ」 まるで、あたしみたいに。 一度も逢った事のない、夏妃さんの面影。 この守り袋には、恋の『残り香』を感じたの。 あたしは、出逢ったこともない彼女に、少しだけ巡り逢えたような気がしたんだ。 「この恋のチカラ、借りるね……夏妃さん」 あたしは刀をギリッと握りなおす。 月灯りの下、水鏡さまの銀の髪が光を浴びて風にゆれた。 桜の下に佇む銀髪の少年と、紅蓮の単衣をまとう鬼の水鏡さま。現し世でありながら、二人だけは夢の住人のようで、言葉が届かない気がする。 それでもあたし、今伝えなきゃ。 永遠に届かなくなる、その前に! 「秋華ちゃん、全力で君を守ろう。俺の大っ嫌いな、千年の代わりに……!」 「士道、さま」 「どうしようもないアイツの、最後の頼みだったしね」 士道さまは笑いながら、あたしの肩をポンと叩いた。その瞳には、雫が浮かんでいたことを、あたし見逃さなかったよ。 「ありがとう。士道さまの力、借りるね……!」 心臓がじわりと温かくなっていく。 すると鬼童丸が、あたしの後方から声をかけてくれた。 「秋華、夕月夜を斬ってくれないか」 「鬼童丸」 「俺も全力で戦う、だから最後の一太刀は、秋華が頼む」 「あたしで、いいの?」 「秋華じゃなきゃ、納

  • ムラサキの闇と月華迷宮   第三章 十三の蝶〜残酷な幻よりも、好きな人〜

     「やっと、気が付いたんだね。秋華ちゃん……!」 「士道さま……?」 蘇芳色の着物に、漆黒の艶めく長い髪。 いつもの士道さまなのに、見た事ないくらい泣きそうな表情だ。 いつも陽の空気を纏っているのに、どうしたんだろう。あたしを見つめる瞳は、とてもとても辛そうで、見ていると心臓がキュッと痛んだ。 「そんな哀しい顔で、どうしたんですか?」 「哀しいに決まってるだろ! 千年がいなくなったんだよっ!」 「士道さま……っ」 あたしは、突然ギュッと抱きしめられた。 どうして、士道さまの方が震えてるんだろう。 だって、もう何も無いんでしょう。 あたしなんか、心配しなくてってもいいのにさ……っ。 「なん、で」 「哀しかったら泣いていい。もう、我慢しなくていいんだ!」 「だって、千年さまは、もう」 「そうだ。平気なフリなんか、もうしなくていいっ! 秋華ちゃん無理してただろ……っ。俺たち皆、めちゃくちゃ心配したんだから……っ!」 心配。そっか、あたし心配されてたんだ。 全然分からなかった。だってね、この世にある色彩を、全部失くしたみたいだったんだよ。 「あたし、千年さまのいない世界なんか……いらなかった……っ!」 だから夢に囚われても、良かったんだ──── 「それじゃ困るんだよ! 僕は、千年に約束したんだから……っ」 「士道さま、に?」 あたしを呪縛から解き放つように、抱きしめていた腕をゆるりと振り解いた。月の光を浴びて、漆黒の髪が蒼身を帯びて煌めく。 士道さまは、あたしの肩にそっと手を置いた。そうして、優しい瞳で言の葉を紡いだの。 「千年からの伝言だ」 「でん、ごん?」 「秋華を守ってくれって。もう、守って……あげられないからって……っ」 肩に触れた手のひらが、カタカタと震えている。 士道さま、泣いてる? あたしは眼から零れる雫に、指先でソッと触れてみたの。 「泣かないで」 「だって、僕じゃ代わりになれないから……っ! 皆、心配したんだよっ。このまま永遠に、目が醒めなかったらどうしようって、僕は……っ!」 「そっか、そうなんだ。あたしなんかを、待っててくれたんだ……」 あたしね、何もかも諦めてたんだ。 こんな世の中、終わっちゃえばいいと思ってたんだよ。全然、ダメな女じゃない? こんなのさ。 だから自ら進んで、この夢

  • ムラサキの闇と月華迷宮   第三章 四の蝶〜そして百鬼夜行の宴へ〜

     雪椿に「またね」と手を振った。 まるで長く長くいっしょに戦った、友のように──── 「帰ろう。千年さまが待ってる!」 あたしは千本鳥居の奥をキッと睨んだ。 緋色に立ちならんだ鳥居。この奥の現し世に、あたしの好きな人がいる。 タンッと地面を蹴った。夢中で駆けて、駆けて、駆けて、駆けて! 永遠かと思うほどの疾走のあと。 真っ白な光──────── 「ああ、晴明神社だ……っ!」 この世とあの世のあわいを抜けて、懐かしいあの場所へ……っ! 「しゅ、秋華!?」 「え、千年さま……っ」 鳥居を抜けると、千年さまが立っていた。 「え、きゃああああああ───────っ!」 え、ちょ

  • ムラサキの闇と月華迷宮   第三章 三の蝶〜白藤の少女と、永遠の約束〜

     「花冠乱舞したよ。どうだった? 夕月夜の、記憶の森は」 目が醒めると、あたしは藤の大樹の下で寝転んでいた。 あたしを上から覗いているのは、雪椿……? 「ん……あたしって、戻ってきたの?」 「そう。あのまま夕月夜の記憶の底に、沈めてやろうかと思ってたけど。……気が変わったから」 見上げた空は、藤の花におおい尽くされていた。 紫の花びらが、はらりはらり。 あたしの顔に降りそそいでいる。 夢から醒めても、艶やかな藤の花。ここには「時」がないみたいだわ。 「キレイ……」 あたしの手のひらに、そっと舞い落ちる花びら。 風にそよぐ風雅な藤の花。なんて幻想的なんだろう。 

  • ムラサキの闇と月華迷宮   第三章 二の蝶〜空のカケラと優しい夕月夜〜

     「さあ、はじめようか……血と煉獄の宴を……!」 刹那、突風が吹いて藤の大樹がユラリと、しなる。 あたしは銀の髪がふわっと舞い上がるのを、瞳に焼きつけた。 誕生させた。 夕月夜を、あたしが──── 何をしたか、を理解した。心臓の音がトクントクンと耳の底にまで響いているようだわ。すると突然、足元がフッと軽くなった。 「雪椿、君は命の恩人だね。父上と母上の仇だ。いっしょに戦おうね」 「にゃあっ」 嫌だ! って言ったのだけど、これ全然伝わってないんだよねえええぇ〜。 ────はあ、それにしても美しい。 夕月夜の眼前まで持ち上げられた、ただいま白猫のあたし。 彼の整

  • ムラサキの闇と月華迷宮   第三章 一の蝶〜闇の王、転生〜

     「にゃ、にゃあぁぁぁあああああああああっっ」 あたしは精一杯の声を、絞りだした……っ! 生きてほしい! これ食べて、生きてほしいよ! もうどんな姿になってもいいよ、このまま死んじゃダメだよっ! 言葉にしたいけれど、それも叶わない。 声がぜんぶ猫になる。 だから彼の唇のすぐ近くまで、真紅の水蓮を運んだ。鼻先でズイッと前に押しだす。 ねえ、これ食べよ?  お願い、口に運んでよ──────っ! 「そっか……生きてほしい……って、こと?」 「にゃ、にゃあぁああぁ」 「わか……った」 夕月夜が、あたしの頭をふわふわと撫でる。 なんて、愛おしい瞳でみつめるのだろう。 ブル

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status